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コース取りの基礎知識 《実践編》 その1

 コースを引く上で大切なことは、多くの情報を元に考えた最善の一手を打つ事が非常に大切です。スタート練習、レース練習、レースのいかなる時も、より多くの情報を得た選手が優位に立つことは間違いありません。その判断による結果がどちらになったとしても、経験値としてあなたの脳に蓄積されていくことでしょう。
下図はスタート前に最低限取得したい9つの情報収集を、一連の流れで素早く確認できるようにした図です。この確認動作を、日頃の練習から取り入れ習慣化できれば、更に多くの情報を収集できるようになり、「恐らく右」「たぶん左」と半信半疑な組み立てではなく、理論的に潮、風、ラインの状態等を自分なりに考えた、戦略的なポジショニングができるようになるでしょう。
まずは、この一連動作をマスターし、それぞれのチェック項目内容を確認していきましょう。


【スタート前の確認項目】
1.本部船の上側から見通しを取る。
2.ラインを流しながらライン角度(バウバリ)を確認する。
3.ライン中央で真上に艇を立て、風軸を確認。ライン角度が正しく設定されているか確認する。
3-1.ライン角度から+90度の角度にバウを向け、風軸とマーク位置にズレが無いか確認する。
4.再びラインを流し、バウバリを再確認しラインの傾きを再確認する。
5.マーク脇に濡らしたスポンジ゛を落とすと同時にストップウォッチをスタートする。
6.アウターマークの下側からの見通しと、風軸を確認する。
7.1分たった所でスポンジを回収。潮の流れ、強さを確認する。
7-1.潮の流れてきた方向にバウを向け、潮の流れる角度を確認する。
8.下マークでも項目5・7と同じように潮の流れ、強さを確認する。
9.ブローでの風軸(リフトかヘダーか)に変化が無いかを確認する。
時間があれば、項目1からもう一度繰り返す。

イギリス練習を学ぶ スタート練習編 その6

6.ブラック30


スタートラインの見極めが出来るようになれば、ブラックフラッグになったとしても周りに流されず自分のタイミングで出れるようになってきます。
しかし、レースともなると艇数が多い上に、スタートラインの距離も格段に長くなり、有利サイドで自分のポジション(フリーウォーター)を確保しようと必死になりすぎ、ラインを見極める思考が低下し、周りに流されがちになるのも事実です。

 

【練習の狙い】

スタート前のラインの見通しや潮の流れなど、きちんと確認しておかなければ感覚のみの練習となり、一向に上手くならない事を改めて認識させることと、どういったケースがブラックに繋がって行くのか、身をもって体験することで危険を察知し、回避できる技術を養う。また、自分ポジションを守り続けるために、どのように艇をコントロールすれば保持できるのか、技術を養う。

①レース練習のショートコース設定で、スタート3分前から始める。全てのスタートがブラックフラッグで、1分前の笛からスタートまでの間、スタートラインを越えコーチボートにセールナンバーを読み上げられた選手は、すみやかにラインから離れ、スタート30秒後のスタート準備のため、ライン後方で待機する。

②スタートホイッスルが鳴った際、セールナンバーを読まれた選手は、すみやかにその場で360度してから再度帆走すること。
30秒遅れでスタートとする選手は、ラインをジャストで出れるようスタンバイしておく。また、どのような流れでスタートしているか、時間があればしっかり観察し、次のスタートに生かすこと。

③ブラックフラックに掛った選手は、通常スタートしたグループの30秒後に吹かれる笛でスタート。
30秒遅れのスタートもきっちり決めてスタートすること。スタートを失敗した時の練習にもなるので、どこまで追いつけるか挑戦する事も、レベルアップにつながります。

【コーチ指導】

ゼネラルリコールが続くようであれば、スタート1分前にコーチボートでラインを流し注意を促す。艇数が多い練習になってくると、コーチボートから声が聞きづらくなるため、下側から上側に移動し、ライン中央付近で待機しながら、トランシーバーなどで連絡を取り合い、ブラックに掛ったセールナンバーを読み上げ、選手に出ていることを伝えて行く。
潮の影響やブローの入り方の違いで、ラインが大きく変化していくので、コーチは何が原因でそういう状況になっているのか良く観察し、レース後に選手と話し合えるよう把握しておくこと。また、スタートラインを変化させて有利エンドを作り、混戦になるような状況を作って行くことも大切です。
ブラック30では30秒後のスタートがあるからと安心させず、時にはブラック艇にはそのままレース観戦に回す事も、コーチの判断で行うのも良いかもしれません。
練習後のミーティングでは、時間も経過し選手の記憶があいまいになりがちなので、海上でしっかりビデオを撮っておけば、コーチと選手の意見の違いも解消されるでしょう。映像は本当に良い教材になるので、色々なケースを取り選手のレベルアップにつなげてください。

イギリス練習を学ぶ スタート練習編 その5

5.コピータック

スタート1分前からのポジショニングで、自分の上艇が上のルームを取ろうとショートタック動作に入った瞬間、上艇と同じ動きが出来れば、自艇の下にルームを確保することができます。簡単なようで非常に難しい技術が必要となってきますが、これも練習次第ではいずれできるようになるでしょう。
【練習の狙い】
激しいスタートポジション争いの中で、自艇を容易に操れる技術を身に付ける。相手の動きを良く観察することで、相手の動こうとする動作を察知できるようになり、ほぼ同時に行動できるようになってくる。洞察力が増せば全ての場面で有効に活用でき、先手が打てるようになる。


上図のようにコピータックをしなかった場合、青艇の下側に十分なルームができ、スタート前に加速をつけてスピードモードで帆走するため、あまり加速スペースの無いピンク艇は青艇に上突破される恐れがある。自分の下側にルームを作るためにも右図のようにコピータックし、より良いスタートを目指したい。
練習図では、①でコーチボートがルーム幅を決めた後、スタートの笛を吹く。上側の青艇はすぐに行動せず、自分のタイミングで素早くコーチボートの下に移動完了する。紫艇は青艇が行動を開始しだした瞬間から行動開始し、素早く青艇の下に移動する。注意:青艇(上艇)より先に行動開始しない事。⑦で完了したら①から再度繰り返す。コーチボートが無くても練習になるのでそれぞれグループに分けて行うのも良いでしょう。

【コーチ指導】
選手のレベルに合わせ、ルーム幅を決めること。また、タックの際の接触を起こしそうになるので、どちらが良いか悪いかを判断する。ビデオを撮ってミーティングの時に検討するのも良いでしょう。クイックに艇を動かして行くのに、何が足りないのかを良く観察し、選手に伝えて行くこと。ダブルハンドとシングルハンドでは動きが異なる所があるので練習前に選手と良く話し合っておくこと。

イギリス練習を学ぶ スタート練習編 その4

4.3分割スタート


選手それぞれに、得意不得意なスタートポジションがあると思います。「下スタが得意」「真中はラインが見えづらいから嫌い」「上スタは誰にも負けん」など色々な意見がありますが、レースではより有利なサイドから出ることが大切であることに間違いありません。


【練習の狙い】

3つのグループに分け、ラインを3分割した各エリアから、それぞれ順番にスタート練習していけば、得意不得意による偏ったポジションからのスタート練習を回避でき、各エリアでのラインの見極めや、ポジションの取り方、不利な位置からの抜け出し方等、多くのパターンを学びレベルアップを図る。


①スタート3分前のホイッスルで、選手はそれぞれ決められたエリアに移動していく。陸上ミーティングの際に、各グループ番号を選手に伝えておくこと。(全艇数÷3グループ)

グループがうまくまとまらない時は、マークを打って分かり易くするのも効果的です(下図)マーク設置の際、スタートライン上に上手くマークを打てないと思いますが、あくまで目印なので特に問題ありません。



②1分前のホイッスルが鳴った時には、各エリアラインに並んでいる様にすること。1回目のスタート後、30秒後に帆走中止のホイッスルを吹き、①から再度スタート練習を開始する。
順番は図のように1回毎に左にスライドしていく。
    

【コーチ指導】

スタートラインの上側、下側のどちらで見ても両方で見ても全く問題ありません。選手の動きを良く観察し、選手個々の良い所、悪い所をメモし、ビデオも撮ってその後のミーティングで話し合うか、海上でその都度指導していくのも良いでしょう。
スタート毎の間隔をコーチが調整し、1回毎のスタートで選手へ指導しても良いし、見ていて問題なければ引き続きスタート練習に入るなど、組み立ては自由にする。
また、分割スタートでそのままレース練習を行うのも非常に効果的です。通常であれば優位な位置からスタートしようとするのが一般的ですが、この練習では非常に不利な所からのスタートを余儀なくされるため、ポジションの大切さを知るのと共に、不利な位置からの挽回方法を学ぶ大変良い機会となるでしょう。コーチは選手が何処でどのように挽回したかも把握しておき、レース後に選手にどうやって挽回したのかを聞き、話すことが出来れば、選手のモチベーションもぐっと上がってくることでしょう。
練習なので接触や、スカーリングによる42条の規則違反が多々発生しやすくなりますが、コーチは発生した違反に対し、しっかりと指導できるようルールを把握し、選手に適切な指導が出来るよう勉強しておくことも大切です。
上側にいるコーチボートは障害物として選手によけさせることを前もって伝えておくこと。レース中もレースエリア内に入って間近で見るのも効果的です。(この時は極力ボートが避けること)

イギリス練習を学ぶ スタート練習編 その3

3.ビックボート 


 大きいレガッタになってくると、スタートライン設置に大型ボート・クルーザー等を使用するケースが増えてきます。小さいボートではリコールや選手に信号旗が見えづらいため、大会規模によって大きさが変わってきます。日頃の練習では再現性が取れませんが、大型船がラインに与える影響を少しでも練習の中で経験しておく必要があります。


【練習の狙い】

ゴムボートを縦に2つならべ、スタート時の帆走エリアの変化を感じ取ってもらうことと、ポジショニングの難しさを体験することで、こういったケースの場合のスタートポジションの取り方を学ぶ機会を作る。

大きいレガッタになると、上記の様な状況が発生しやすいので、それに類似するような場面を作って練習しておくことが大切になってきます。特に大きいレースを控えている場合は有効となります。


【コーチ指導】

ゴムボートを使用するため、大型船のように極端なブランケットは発生しませんが、ポジション取りが非常に難しいので大変勉強になります。
コーチは上、下スタート練習を何回かに分けて行うのと、この状態でラインを変化させて有利サイドを難しい側にするのも効果があるでしょう。
有利なサイドが今回の様に難しい場合、あえてそこを外し、より良いスタートが出来るポジションを、選手と一緒に考え探し出す事が大切です。
レガッタの第一レースから、このような危険な所に入って行くのは無謀ともいえます。練習を重ね、デットラインはどこなのかしっかり把握できる思考になる様、導いて行きましょう。